元ゴールドマン・サックスで、現在は「金融経済アカデミー」の共同代表を務める実業家の松井雅章さんが、名古屋証券取引所とテレビ愛知が共同で運営するYouTubeチャンネル『あしたのマネー』に出演しました。世界最高峰の金融機関で働いた経験や、日本の「金融リテラシー」についての考えを話しました。
ゴールドマン・サックスは「実はホワイト」? 激務のイメージと現場のリアル

一般的に「激務」というイメージが強いゴールドマン・サックス証券ですが、松井さんは「個人的にはすごく働きやすく、かなりホワイトだった」と振り返ります。
企業同士の買収などを扱う「投資銀行部門」では、本当に忙しい時期には寝ずに仕事をし、午前1時に「会議をお願いします」と連絡が来るような厳しい現場もあります。しかし会社全体としては「人」を非常に大切にし、ケアや投資を惜しまない文化があります。
また、アメリカを代表する大企業であるため、労働環境やハラスメントに対する周囲の目も厳しく、会社として適切な働き方を徹底させている側面もあるそうです。
他社と何が違う? 兆円単位の取引で徹底する「リスク計算」

ゴールドマン・サックスが他社よりも成果を出せる理由について、松井さんは「社員一人ひとりが他社より特別に優れているわけではない」と話します。違いが出るのは「考え方の深さ」にあります。
例えば、兆円単位の大きな取引を行う際、オペレーションに1週間ほどかかることがあります。その途中で大規模な地震などが起きた場合、市場にどのような影響が出るか、自分たちの保有している資産のポジションがどうなるかを徹底的に検討します。
「そんなことは起きないだろう」と無視するのではなく、「もし起きたらどうなるか」というシナリオ分析を細部まで突きつめて行います。そこまでリスクを考え抜くからこそ、最終的に上の立場の人も「リスクを取ろう」と腹をくくることができるのです。
英語は「話せなくても活躍できる」

「ゴールドマン・サックスでは英語が話せないとダメなのか」という疑問に対し、松井さんは「全然英語ができない人も多い」と話しました。
本店のあるニューヨークと連絡を取り、会社の総合力を活かすためには英語ができた方が有利な場面もあります。しかし、市場を読む頭の良さや、人と信頼関係を築くコミュニケーション能力など、別の強みでカバーして成果を出す方法もあります。パフォーマンスを上げるやり方は「十人十色」であり、TOEICの点数や英語力だけで評価が決まるわけではないと説明しました。
「日本人は金融リテラシーが低い」は本当か? デフレ下での現金保有は「合理的」

一般的に「日本人は資産のうち現金や預金の割合が高く、株や投資信託を多く持つアメリカ人に比べて金融リテラシーが低い」と言われることがあります。これに対し、松井氏さんは「それはすごく合理的だ」と反論します。
アメリカの場合 日常的にインフレが続く。現金のまま持っていると価値が目減りするため、株や不動産などに投資して資産を守る必要がある。
日本の場合 長年にわたりデフレが続いていた。デフレの国では、来年や再来年にモノの値段が安くなるため、現金のまま持っておくことが合理的な選択になる。
世間の常識や新聞で「日本人はリテラシーが低い」と言われていても、置かれている経済環境(デフレ)を考えれば理にかなった行動です。松井さんが運営する「金融経済アカデミー」では、このように「世の中の当たり前を一度疑ってみる視点」を学生たちに伝えているそうです。
学びのコツは「知識を忘れてもいい」こと

お金や経済の勉強について、松井さんは「細かい知識はどんどん忘れてしまっていい」と話します。
アップル創業者のスティーブ・ジョブズ氏が語った「コネクティング・ザ・ドッツ(点と点がつながる)」という言葉のように、若い頃に聞いた話や経験は、その場で完璧に理解できなくても「点」として頭の中に残ります。日常の中でニュースや専門用語に触れておくだけで、ある日突然それらの点が線としてつながり、理解できるようになります。
テスト前の一夜漬けのような知識ではなく、若いうちから社会や経済の仕組みに興味を持ち、頭の中にフレームワークを作っておくことが大切だと締めくくりました。


