2018年、当時小学6年生の笠島彩楓さんが、夏休みの自由研究に選んだテーマは「がん」でした。母・由紀さんが、がんを患っていたからです。
彩楓さん(当時11):
「子どもたちががんのことを知れば親の病気を理解できるし、自分がなった時焦らない」
病院を見学し、がんを経験した人たちの話を聞き、1か月かけて完成させた30ページの自由研究。そこに11歳の彩楓さんが書いたのが、「がん=死ではない」という言葉でした。
それから8年。19歳になった彩楓さんが久しぶりに自由研究を開くと、当時気づかなかった母の思いが、そこにありました。
彩楓さん(19):
「母の愛情を感じますよね、いま見たら」
いまは亡きお母さんの思い。そして、自分が書いた言葉に込めていた思いも。一冊の自由研究から見えてきた、親子の物語です。
■2017年 当時5年生の彩楓さんに「がん」打ち明け

取材班が彩楓さんに初めて出会ったのは、2017年。当時、小学5年生でした。
記者:「一番好きなことは何ですか?」
彩楓さん(当時10):「絵を描くこと、フラ、タヒチ」
フラダンスを教えてくれたのは、母の由紀さん。実は、この時、由紀さんは自分ががんであることを彩楓さんには秘密にしていました。
母・由紀さん(当時42):
「当初は、まだ早いと思ったんです。子どもに(がんを伝えるのは)。子どもでも、うつになってしまうのかなとか、悪いことしか考えなくて」
2015年に気管支に、がんが見つかった由紀さん。腺様嚢胞(せんようのうほう)がんという珍しい種類のがんで、手術で取り除くことができず、放射線治療などで闘病を続けていました。

娘にどう伝えればいいのか…。勉強会に参加し、医師にも相談を重ねた由紀さん。伝え方やタイミングを慎重に考え、がんが発覚してから約2年後、彩楓さんに病気を打ち明けました。
すると…。
彩楓さん(当時10):「家族だから一番最初に教えてほしい」
家族の中で一人だけ内緒にされていたことに傷ついていたのです。
でも、やっぱり…。
彩楓さん(当時10):「お手伝いとかはやって、それでがんが治るように応援する」
母・由紀さん(当時42):「いままで話さなかったことは、すごく悪いことをしたなというのと、うまく家族で病気と付き合っていきたい」
■2018年 「がんについてもっと知ろう」

その1年後の2018年。小学6年生になった彩楓さんは、夏休みの自由研究で「がん」について調べることを決めました。
母が通院していた愛知県がんセンターを訪れ、親ががんを患うほかの子どもたちと一緒に病院を見学。

さらに、身近な人や自身ががんを経験した子どもたちの集まりにも参加しました。
自身ががんを経験 中村航大さん(当時16):
「がんってみんな怖いとか、悪いイメージがあると思いますが、ちょっと考え方を変えてみるといいかも」
ほかにも、お母さんと一緒に様々な患者会などを訪ね、病気との向き合い方などを聞きました。

そして、2018年8月31日。夏休みの最後の日。1か月かけて取り組んだ自由研究が完成。30ページにも及ぶ大作です。

病気の説明は、わかりやすいように得意な絵で表現。話を聞かせてくれた人たちの体験談も。

さらに、患者が周りの人に望むこと『普段通り接してほしい』『困った時は助けてほしい』などもまとめました。

そして…。
彩楓さん(当時11):
「『がん=死じゃない』ってことを知ってほしいです。(患者)会に行った時、がんになった人は病気とわからないぐらい元気だった」
母・由紀さん(当時43):
「子どもなりにうまくまとめてくれて、成長を感じて感心しました」
その後、「自由研究を紹介してほしい」と声がかかり、がんの勉強会など様々な場で研究の成果を発表した彩楓さん。そばには、いつも娘の成長を喜ぶ由紀さんの姿がありました。

しかし、2021年。6年にわたる闘病の末、由紀さんは亡くなりました。彩楓さんが中学3年生の時です。
■2026年 見えてきた親子それぞれの思い

それから5年がたった2026年8月。19歳になり、大学生となった彩楓さんの姿は、名古屋市守山区の志段味図書館にありました。
彩楓さん(19):
「母がどんな気持ちでいるのか、何に苦しんでいるのか。私はよくわかっていなかった」
この日開かれた「がん教室」で講師として、母の病気や家族として向き合っていた経験などについて話していたのです。

会場では、思いがけない再会もありました。質疑が始まると…。
参加者:「お久しぶりです」
参加者の男性が持ってきていたのは、彩楓さんが小学生のころに描いたという似顔絵です。
参加者:
「いま、どうしているんだろうと思っていたら、今回の案内をもらって絶対来ようと思って。すごく成長しているなと」

実は、彩楓さんはがんに関する場に足を運ぶのは数年ぶりでした。その理由について…。
彩楓さん(19):
「母が亡くなってからは、がんのことを思い出すことがつらくて、ずっと考えないようにしていた」
がんについて語ることを避けていたという彩楓さん。

再び向き合うきっかけになったのが、久しぶりに開いた「自由研究」だったといいます。
彩楓さん(19):
「母の愛情を感じますよね。いま見たら。(母が)こんなにも、いろいろなところに連れて行ってくれて、いろいろな人に出会って、いろいろな世界を知れたなと」

大人になったいま、改めて感じた母の思い。そして、今回、初めて明かしてくれたことが…。
彩楓さん(19):
「正直なことを言うと、ここに書いてあった『がん=死ではない』というのが死ぬ恐怖みたいな、もしかしたらお母さんが死んでしまうんじゃないかという(恐怖から)強い言葉を選んだというか」
『がん=死ではない』。その言葉には、母を失うことへの恐怖と、生きていてほしいという願いが込められていたのです。

娘に広い世界を見せたかったお母さん。母に生きていてほしいと願った娘。8年を経て、見えてきた親子それぞれの思いです。
彩楓さん(19):
「(母の死から)結構時間もたったし、どうしたら立ち直れるかなとか思っていたが、立ち直るというより、その思いを抱えて、ちょっとずつ向き合っていこうかなと思う」
【中京テレビ 「キャッチ!」 2026年9月1日放送より】


